コラム
引きこもりの看護計画はどんな内容なの?症状に合わせた具体策を解説

・引きこもりとは、どういう状態の人のことを言うの?

・引きこもりのある統合失調症の方への関わり方はどうしたらいいのか。

・病気だから引きこもるの?

引きこもりについて、このような疑問を持った方もいらっしゃるでしょう。

引きこもり状態になっている本人や家族は、今の状態を変えたくてもどうしていいかわからなかったり、誰に相談していいかわからなくなってしまいます。

一度引きこもってしまうと、解決は容易なことではありません。実は、統合失調症によって問題解決が困難となっているケースもあります。

精神疾患を持つ方のなかで、特に統合失調症はさまざまな症状が存在し、患者さんによって現れる症状もさまざまです。その方に合った看護が必要であり、疾患に関する知識と理解を持つことが重要です。

引きこもりを解決したくても、本人や家族だけの力ではうまくいかない場合もあります。そういう時には、精神科領域の専門スタッフと一緒に問題解決へ向けて計画を立てることをおすすめします。

今回は、引きこもりとはどんな状態か、統合失調症とはどのような症状か、引きこもりや統合失調症の方に対する看護計画について解説しています。

引きこもりに悩んでいる本人や家族、訪問看護を利用したいがどのような看護計画が立案されているか知りたい方などは、是非ともこの記事を参考にしてみてください。

引きこもりとは

テレビなどさまざまなメディアでよく耳にする「引きこもり」とはどのような状態のことをさすのでしょうか。

引きこもりとされる状態は、以下の2つに定義されます。

  • 幻覚や妄想などの病的体験によって周囲との関係を取れずに不安状態になっている
  • 自発的な目的のある行動が取れず、周囲との接触を避けて終日ぶらぶらとしている無為状態

今回は、前者の病的体験によって周囲との関係を取れない不安状態である統合失調症について具体的に解説しています。

統合失調症とは

統合失調症は、幻覚や妄想などの症状があり、日本人の全人口のうち100人に1人が発症する頻度の高い疾患といわれています。

統合失調症の概念は、「思考、感情、行動を統合する能力が障害された精神疾患である」とされています。これは、どういった状態なのでしょうか。

この項目では、統合失調症はどのような疾患なのかを解説しています。

統合失調症の診断基準

統合失調症に対する基準は、幻覚、妄想、思考の混乱、言語の障害、社会的引きこもりなどが1ヶ月以上持続し、日常生活に重大な影響を与えることです。

国際的な診断基準で取り決められているのは「DSM-VI」および「ICD-10」が使われます。典型的な症状が1ヶ月以上続き、何らかの症状が6ヶ月以上持続することが必要とされています。

【DSM-VIの診断基準】

アメリカ精神医学会が作成した診断基準は以下の通りです。

A.特徴的症状:以下のうち2つ(またはそれ以上)、各は1ヶ月の期間(治療が成功した場合はより短い)ほとんどいつも存在。
  • 1:妄想
  • 2:幻覚
  • 3:まとまりのない会話
  • 4:ひどくまとまりのない、または緊張病性の行動
  • 5:陰性症状、すなわち感情の平板化、思考の貧困、または意欲の欠如
  • 注:妄想が奇異なものであったり、幻聴がそのものの行動や思考を説明するか、または2つ以上の声がお互いに会話しているものである時には、基準Aの症状を1つ満たすだけで良い。

B.社会的または職業的機能の低下:生涯の始まり以降の期間の大部分で、仕事、対人関係、自己管理などの面で1つ以上の機能が病前に獲得した水準よりも著しく低下している(または、小児期や青年期の発症の場合、期待される対人的、学業的、職業的水準までに達していない)

C.期間:生涯の持続的な兆候が少なくとも6ヶ月以上存在する。この6ヶ月の期間には、基準Aを満たす各症状(すなわち、活動期の症状)は、少なくとも1ヶ月(または、治療が成功した場合はより短い)存在しなければならないが、前駆期または残遺期の症状の存在する期間を含んでも良い。これらの前駆期または残遺期の期間では、障害の徴候は陰性症状のみか、もしくは基準Aに挙げられた症状の2つまたはそれ以上が弱められた形で表されることがある。

D.統合失調感情障害と気分障害の除外:統合失調感情障害と「気分障害、精神病性の特徴を伴うもの」が以下の理由で除外されること
  1. 活動期の症状と同時に、大うつ病、躁病、または混合性のエピソードが発症していない。
  2. 活動期の症状中に気分のエピソードが発症していた場合、その持続期間の合計は、活動期及び残遺期のの持続期間の合計に比較して短い。

E.物質や一般身体疾患の除外:障害は、物質(例:乱用薬物、投薬)または一般身体疾患の直接的な生理学的作用によるものではない。

F.広汎性発達障害との関係:自閉性障害や他の広汎性発達障害の既往歴があれば、統合失調症の追加診断は、顕著な幻覚や妄想が少なくとも1ヶ月(または治療が成功した場合はより短い)存在する場合のみに与えられる。

【ICD-10の診断基準】

DSM-IVと並んで、国際的に使われているWHOが作成したICD-10の診断ガイドラインは以下の通りです。

下記の症状が1ヶ月以上続いて見られる。

1.次のうち1項目以上(明白でなければ2項目以上)
  • 思考化声、思考吹入、思考奪取、または思考伝播。
  • 支配、影響、無抵抗にされるという妄想(身体・四肢の動きや特定の考え、行動、感覚にまつわるもの):妄想知覚。
  • 患者の行動を絶えず論評する幻声、患者について話し合っている幻声、または体の一部で発する幻声。
  • 一般教養では不適切・不可能な性質の頑固な妄想、例えば、宗教や政治的な身分、超人的な能力。
2.あるいは、次の2項目以上
  • あらゆるタイプの頑固な幻覚:浮動性または未完成の妄想や優格概念(感情に強く裏付けられた概念で、その人の思考や行動を持続的に支配するもの)を伴っていたり、数週または数ヶ月以上毎日続くことがある。
  • 思考連合の途絶や改ざん(滅裂思考、的外れ会話、新語造成)
  • 緊張病性の行動(興奮、蝋屁症、拒絶症、緘黙症、昏迷など)
  • 陰性症状(著しい無感情、会話の貧困、感情反応の鈍化・不調和、通常は社会的引きこもりや社会的活動の低下を伴う):うつ病や神経遮断薬によらないことが明瞭なもの。
  • 人格行動に見られる明らかな、持続性の質的変化(関心の喪失、無目的、無為、社会的な引きこもり)

統合失調症の症状

統合失調症の代表的な症状は、幻覚と妄想です。

まず、実際に起きていないことを真実のように思い込んでしまう「妄想」があります。この妄想の一例として以下の種類があります。

  • 被害妄想:他人や組織からの嫌がらせや攻撃を受けると思い込む
  • 関係妄想:全ての出来事を自分と関連づけて考えてしまう思い込み
  • 注察妄想:誰かに盗撮や盗聴を受けているという思い込み
  • 誇大妄想:自分が優れている、自分を誇大視する思い込み
  • 被毒妄想:食べ物や飲み物に毒を入れられているという思い込み

また、実際には存在しない感覚や知覚を体験してしまう「幻覚」も現れます。さまざまな症状がありますが、以下のような種類が挙げられます。

  • 幻聴:本当は聞こえない声や音が聞こえるように感じる
  • 幻視:実際には見えないものが見える
  • 幻嗅:実際にはないにおいを感じる
  • 知覚過敏:音やにおいに敏感になる

これらの状態を合わせて「陽性症状」と呼びます。

これらとは違い、あるはずのないものがなくなる症状の「陰性症状」も現れます。これは、感情や意識的な症状であり、喜怒哀楽の表現が乏しくなったり、意欲がなくなりさまざまな行動が難しくなってしまうことでコミュニケーションも難しくなり自分の世界に引きこもってしまう状態になります。

陰性症状の他に、感情や生活阻害症状があります。

感情では、興奮、瞑想、拒食、感情鈍磨、心的遮断、カタレプシー、拒絶、自閉、抑うつ、パニック、自己喪失があります。

生活阻害症状には、話のピントがずれたり論点の食い違いが生じる論点相違と、作業のミスが多かったり、行動の効率が悪いなどの能率低下があります。

統合失調症の原因

統合失調症の原因はさまざまで、遺伝的要因、神経化学の不均衡、脳の構造と機能の異常、環境ストレスなどが関与しています。

脳内で情報を伝える神経伝達物質のバランスが崩れたり、大きなストレスがかかることも関係があるようです。また、遺伝も関与しているといわれていますが、単純に遺伝だけの問題ではなく、さまざまな要因が関与していると考えられています。

統合失調症の治療

統合失調症の治療には、薬物療法、休養や環境調整、心理社会療法を行います。

これらは、発症の経過によって治療が異なるため、早期改善のためには各段階における適切な治療が必要です。

発症の経過については、次の項目で解説しています。

統合失調症の経過

統合失調症にはさまざまな症状が現れますが、これらの発現時期は病態によって異なります。

この項目では、統合失調症の症状経過について解説しています。

前駆期

前駆期は、急性期を前にしてさまざまな統合失調症の症状が出現する時期です。焦り・不安感・感覚過敏・集中困難・気力減退・不眠・食欲不振・頭痛といった症状が出現します。

不安障害やうつと同様の症状が現れることが多いため、誤って診断が下されてしまう可能性も少なくありません。

また、単なる疲労や体調不良として放置されるケースもあります。

急性期

幻覚や妄想などの統合失調症に特徴的な症状が出現する時期です。幻覚や妄想が現れることで不安や恐怖、切迫感といった感情が強く引き起こされます。

睡眠や食事などの生活リズムの乱れや行動・コミュニケーションの欠落などの対人関係に支障をきたしてしまいます。

消耗期

消耗期は、急性期で蓄積された心身の疲労が現れる時期です。主に陰性症状が現れ、思考や行動が鈍くなったり、疲れやすさやうつ症状も現れます。

この時期になると、エネルギーを蓄えることによって回復期へ向かうため、基本的な生活改善を行うことで同時期の症状は自然になくなります。

回復期

消耗期から次第に陽性症状が減少し、徐々に心身の回復がみられて活動量も少しずつ戻ってくる時期です。

しかし、現実感を取り戻しつつも疲労感や意欲減退を覚えて将来への不安と焦りを感じていまだに元気がない状態でもあります。

可能な範囲での社会復帰を目指し始めても良い時期です。

安定期

安定期においては、完治と認識されて社会復帰への基準となります。

リハビリや看護の支援を受けながら安定した生活を送れるようになりますが、無理をすると再び症状が悪化する恐れがあるため、本人の意見を尊重しつつ、無理せず社会復帰を目指します。

引きこもり状態の看護とは

これまで解説した統合失調症の引きこもり状態である患者に対して、どのような看護が必要なのでしょうか。

この項目で詳しく解説しています。

看護のポイント

看護のポイントとしては、統合失調症のどの時期で、陽性症状と陰性症状はどのように現れているかを観察する必要があります。

また、本人だけではなく家族のサポートも重要になってきます。

症状によって、セルフケアが不足しているか、周囲に暴力を振るってしまいそうなのか、活動と休息のバランスが崩れているのかといった問題を明確にして看護計画を立案します。

長期目標

長期目標は、患者や家族にどんな状態になってほしいかという長期的な目標を設定します。この目標を達成する期日として、評価日を記します。

短期目標

短期目標は、患者や家族にどんな状態になってほしいかという短期的な目標を設定します。この目標を達成する期日として、評価日を記します。

表現の方法は、看護師が主体ではなく患者が主体となります。例えばセルフケア不足に対して、「看護師の援助によりセルフケアが行える」といった形です。

OP(観察)

まずは、看護師による観察項目から記入します。ここでも優先順位を考慮した項目を記します。

患者背景

患者自身の社会的背景や家族背景、これまでの生育歴が治療には重要な情報になります。

治療が開始となった後も、どのような背景があるか、それに変化が起きていないかを観察します。

表情・言動

症状によって表情や言動の変化があります。また、症状が落ち着いていると思っていても急な変化を起こす可能性もあるため、些細な変化も見逃すわけにはいきません。

食事摂取状況

食事の量や食事内容、食事摂取動作が自立しているか、介助が必要かを観察します。

消耗期にはエネルギーの消費も多いため、回復期に入る頃には元の食事量に戻っていく必要がありますが、症状によっては過度に摂取してしまうため注意します。

全身状態

統合失調症の症状だけではなく、基礎疾患の有無や自傷他害による全身状態の変化がないかを確認します。

セルフケア

食事、排泄、清潔、移動など日常生活動作において全て自立できているのか、陰性症状により介助が必要な状況なのかを観察します。

症状によっては、ケアの介助を拒否する状況もあるため、症状も同時に確認します。

内服薬管理状況

統合失調症の治療には、内服薬の管理は重要です。患者自身が管理しているか、家族が管理しているか確認することや、主治医の指示通りに服用できているかを確認します。

睡眠状況

睡眠状態には、睡眠時間・中途覚醒の有無・熟睡感の有無・睡眠パターン・休息時間があります。また、幻覚や妄想などの症状による睡眠状態への影響の程度を観察します。

周囲の安全確認

生活環境において、症状によっては刃物や尖ったもの、紐などが自傷他害の道具になってしまいます。そのようなものが近くにないか、生活環境は整っているかを確認します。

周囲の認識や支援体制

患者の家族だけではなく、親戚や友人など周囲の認識や支援体制についても確認します。周囲の認識がないことで患者に対する理解ができずにコミュニケーションがうまく取れなくなってしまうケースがあります。

TP(実施、援助)

この項目では、具体的なケアの計画について解説しています。

セルフケア行動が取れない場合

症状によっては、セルフケア行動が取れない場合があります。無理に介入するのも困難なこともあるため、患者と共に段階的で達成可能な目標を設定してプランを計画します。

幻覚や妄想がある時や、不安や恐怖を感じている時にはその場に付き添います。

陽性症状・陰性症状がある場合

幻覚や妄想によって暴力の危険性が高いと判断した場合は、主治医へ報告して対応を検討する必要があります。

興奮状態の時には無理に話をしないようにして、落ち着いた態度で接して1体1ではなく複数で接するようにしましょう。

受け入れが全くできない場合

看護師間で対応を統一します。受け入れが全くできない場合は、無理に介入せずに主治医と相談し適切な方法を検討します。

会話が続かなくても一緒にいる時間をもつ

会話が続かないからとすぐに退室するのではなく、その沈黙の時間も一緒にいるようにしましょう。何かしら考えていたり、話そうとしているかもしれません。

一緒にいることで安心感を与えることもできますが、症状によっては苦痛を与えてしまう場合もあるため注意しましょう。

長時間、部屋で1人にしない

症状によっては、希死念慮がある場合は長時間部屋で1人にさせないようにします。これは、家族の協力も必要です。

場合によっては、主治医へ連絡し対応を相談します。

必要時は主治医へ連絡する

症状や生活状況によっては、主治医へ連絡して対応を相談する必要があります。

すぐに受診が必要なのか、経過観察で良いのか判断に困った時にも相談できるよう日頃から連携を密に取りましょう。

自傷・他害行為が考えられる場合は安全に配慮して環境整備をする

自傷・他害行為が考えられる場合には、安全に配慮して環境整備をします。すぐに受診が必要な場合も多いため、主治医へ報告して対応を相談します。

EP(指導・教育)

指導や教育は、本人だけではなく家族を含めて実施します。

スタッフや家族・周囲の人々は安心して良い存在であることを説明する

症状によっては周囲の人が敵だと感じてしまう場合があります。スタッフや家族・周囲の人々は安心して良い存在であることを説明しましょう。

非言語的表現から言語的表現へ変えるよう指導する

症状によっては、非言語的表現が中心となってしまいます。それではなかなか伝わらないこともあるため、状態を見ながら言語的表現ができるように指導していきます。

食事や入浴などの活動により生活リズムをつけることが大切であると伝える

食事や入浴、睡眠などの生活リズムを整えることで症状の軽減も図れます。症状の出現状態に注意しつつ生活リズムが整うよう支援します。

自分のペースで思いを表現して良いことを伝える

自分の思いをうまく表現できない状態もあります。無理にすぐに表現させるのではなく、自分のペースで表現して良いと伝え、安心できるように関わりましょう。

自傷・他害行為が考えられる場合には、すぐに連絡するよう家族にも伝える

自傷・他害行為が考えられた時に、家族は「自分達が我慢すればいい」と誰にも相談しない場合があります。すぐに主治医や訪問看護に連絡するよう家族へ指導しましょう。

引きこもりの精神状態を理解し、その時に合った看護介入をしていきましょう。

いかがでしたか?引きこもりとはよく耳にするものの、具体的にはどのような状態か知らないという方も少なくなかったと思います。

実は、統合失調症によって問題解決が困難となっているケースもあるのです。精神科領域の看護経験が豊富であっても、症状の経過によっては判断に悩む状態もあります。

問題解決のためには、患者本人の安心できる環境作りと精神面のフォローができるような看護計画の立案・実施をしていきます。

また、問題解決のためには、患者本人だけではなく家族への看護も重要であり、訪問看護などの社会資源をうまく利用していくことも良いでしょう。