コラム
精神科訪問看護を選ぶうえで大事なリスクマネジメントを解説!

・看護におけるリスクマネジメントとは何?

・精神科領域で特徴的なリスクとは?

・事故防止のためには何をしたらいいのか

医療安全マニュアルを作成したいが、このような悩みを持っている方はいらっしゃいませんか?

領域に関係なくリスクマネジメントは看護において大変重要です。

精神科領域においても、治療が落ち着いた患者さんが住み慣れた環境で治療を継続しながら生活できるために、訪問看護師がご自宅へ訪問し健康管理を行う機会が増えています。

病院に入院中のリスクマネジメントと同様、退院後の自宅でのリスクマネジメントについて事前に対策しておかないと事故につながってしまいます。

そこで、この記事ではリスクマネジメントにおける看護師の役割や精神科訪問看護における起こりやすい事故、リスクマネジメント対策について詳しく解説しています。

精神科訪問看護の医療安全マニュアルを作成したり、事故を起こさないために日頃から対策を行いたい看護師さんは是非ともこの記事を参考にしてみてください。

リスクマネジメントとは

リスクマネジメントとは、これから起こるかもしれない不確かな出来事に対し、そのリスクを事前に予測し良い結果をもたらすために何をすべきか、被害を最小限にとどめるためにはどのような対策が必要かを管理・運営することを指します。

リスクマネジメントの基本は、リスクの把握・評価・分析・対応というプロセスを通じて医療の質を確保し、組織を損失から守らないといけません。

看護の現場においては、ヒヤリ・ハット、インシデント、アクシデントなどの言葉を用いています。これらのリスクを事前に把握することからはじめ、P(リスクの把握)、D(リスクの分析)、C(リスクへの対策)、A(リスク対策への評価)といったプロセス(PDCAサイクル)を繰り返し、継続的に見直すことが重要です。

リスクマネジメントの正しい知識を元に、リスクに対して正しいプロセスで対応することで、組織の価値を維持・向上できます。これは、病院だけではなく訪問看護ステーションにとっても重要になります。

リスクマネジメントにおける看護師の役割

看護の現場において、全ての援助や対応がリスクにつながる可能性があります。

日々、患者さんやご家族に向き合う際に、リスクマネジメントにおける看護師にはどのような役割があるのでしょうか。

詳しく解説します。

患者・利用者を守る

まずは、患者さんや利用者を守ることが重要です。

精神状態によっては、自傷・他害を起こしてしまう危険性もあるため、ハサミや包丁などの刃物や危険物が自宅のどこにおいてあるか、窒息や誤嚥などを起こさないための食事管理についてなどの確認をしておきましょう。

看護師を守る

支援する看護師自身を守ることも大切です。

訪問看護においては、利用者さん宅へは基本的に看護師一人で訪問します。利用者さんの精神状態によっては看護師の身の危険が起きてしまう可能性もあります。

利用者さんによっては、看護師一人での訪問ではなく複数名訪問も可能です。訪問できるかどうかは、主治医が作成した精神科訪問看護指示書を事前に確認しておかないといけません。

緊急事態の連絡方法や、不測の事態に外に出られるようにしておくなどの対処法を確認しておきましょう。

医療の質を保証する

事故を起こさないためだからといって、医療の質を落とすわけにはいきません。

精神科領域における治療法や薬剤についての情報や学習についても研修を受けたりして最新のものにしておくことが重要です。

医療の質を保証しつつ、事故を未然に防げるようにスタッフ間で話し合い対処法を検討しておきましょう。

精神科病棟と精神科訪問看護での違い

精神科領域において、精神科病棟へ入院している患者さんと精神科訪問看護においての違いがあります。

患者さん・利用者さんだけではなく、看護師それぞれを守るためにも事前に理解しておく必要があります。

それぞれ見ていきましょう。

精神科病棟の場合

精神科病棟でのリスクマネジメントとして代表的なものとしては、鍵の管理です。

精神科病棟において終日閉鎖病棟となっている場合は、看護師が適切に鍵の管理をしています。

患者さんの精神状態を常に観察し、危険行為がないかアセスメントしてリスクを評価します。異常を早期発見し、事故を未然に防ぐことが重要です。精神状態の変化がみられた際、状況によっては主治医へ報告し薬剤の調整や病室の変更などの対応が必要となります。

また、入院の際にはハサミなどの危険物の持ち込みを防止するために持ち物チェックをすることがあります。

精神科訪問看護の場合

症状が落ち着き、自宅やグループホームでの生活をする利用者さんに対し看護師が一人で訪問します。

プライベートな空間に入る看護師においては危険行為から身を守る対策を理解し、実施できるようにしておかないといけません。利用者の状態によっては、2名体制での訪問が必要なケースもあります。

例えば、訪問時に危険を感じた際の退路を確保しておいたり、訪問時の距離を一定以上保つなどの安全対策を行います。

精神科訪問看護における起こりやすい事故

精神科病棟での入院中は看護師によって観察ができ、必要であればすぐに医師へ連絡して対応が可能ですが、退院後はそうもいきません。

自宅や施設などでの生活でのリスクマネジメントも念頭に訪問看護を行うことが重要です。

精神科訪問看護において起こりやすい事故についても事前に理解しておきましょう。

詳しく解説します。

自殺(希死念慮)・自傷行為

自殺や自傷行為は精神科で発生する事故で多くを占めており、精神科の三大医療事故のひとつです。

長期の入院生活から症状が落ち着き退院したからといって、症状が再発しない訳でもありません。うつや精神状態によっては希死念慮を抱いてしまう状況もあります。

入院中であればすぐに話を聞いたり対応ができますが、訪問看護においては難しい場合もあります。

訪問看護師は、利用者さんの言動や表情、精神状態を注意深く観察し、危険物の有無や管理状況を確認したり希死念慮や自傷行為があった時にはすぐに受診や対応できるように準備しておきましょう。

転倒・転落

病院でもよく起きる事故の一つが転倒・転落です。自宅や施設での生活においても、転倒や転落に注意が必要です。

利用者さんの年齢や筋力低下が要因となり転倒・転落したり、幻覚や幻聴などの精神状態の変化が出現することでいつもは問題なく移動できた場所でも事故を起こしてしまう可能性があります。

訪問の際には、生活環境において転倒・転落を起こしやすい場所はないか、服薬の状況や精神面の変化はないか観察し、事故を未然に防ぐ対策を実施します。

窒息・誤嚥

精神科の治療薬の中には、副作用として嚥下障害や口渇といった症状が出現するものがあります。また、会話しながら食事を摂ることによって窒息や誤嚥を起こす可能性もあります。

嚥下障害がある場合、自宅で食事を摂る際にパンや大きめの食べ物により窒息を起こしてしまったり、食事形態によっては誤嚥を起こしてしまいます。

利用者さんの治療薬の副作用や症状に注意し、窒息や誤嚥を起こさないように介入したり、もしも起こしてしまった場合の対応について事前に確認することが重要です。

看護師やご家族への乱暴な言葉や暴力

精神状態が不安定になってしまったり、自分の要望をうまく伝えられなかった時に乱暴な言動や暴力での表現になってしまう場合があります。

身近だからこそ家族や看護師へ暴言や暴力での表現になってしまい、さらにエスカレートしやすいため、乱暴な言葉や暴力があった際にはすぐに報告・相談してもらうようにしましょう。

いつもと違う険しい表情だったり、イライラしたり大声を出したりと変化があった場合は注意が必要です。訪問看護師は、常に冷静な対応で寄り添います。

攻撃的な行動

暴言や暴力と同様に、イライラしていたり怒りが制御できずに暴れたり物を投げるなどの攻撃的な行動をとる場合があります。

家族だけでの対応は困難な状態でもあるため、緊急で対応します。いつもと違う険しい表情だったり、イライラしたり大声を出したりと変化があった場合は注意が必要です。

リスクマネジメントの対策

自宅や施設での生活において、事故を起こさないための対策にはどのようなことがあるのでしょうか。

普段通りの介入だけでは不十分な場合もあり、看護師の観察や対応が重要となってきます。この項目では、精神科訪問看護におけるリスクマネジメント対策について解説しています。

それぞれ見ていきましょう。

事実の共有

訪問看護では、訪問終了後には訪問記録を記載します。記録を記載するだけではなく、何かしらの変化があればスタッフ間での情報の共有を同時に行います。

何かしらの変化について看護師ごとに対応が違ったり、次に訪問した看護師が対応に困ったり利用者の状態悪化があっては利用者やご家族も困ってしまいます。

普段から情報の共有を行うことで、ご家族からの急な連絡があり対応が必要となった場合にはスムーズに対応できるようにしておきましょう。

場合によっては複数人で対応

精神状態が不安定になっている場合は、複数人での対応を行うことも考えておきましょう。

精神科訪問看護指示書に複数名訪問について主治医より記載されているか確認し、複数人での訪問をします。事故を未然に防ぐためにも、万全の体制で看護を提供できるように調整します。

チームで話し合う

利用者さんの状態の変化があれば、チームで話し合う機会を作りましょう。看護師間だけではなく、上司や作業療法士など訪問看護に携わるスタッフ間で今後の方向性を考えていくことが重要です。

訪問中に急な対応が必要となった場合の対応策についても検討しておきましょう。

主治医や相談員、保健師へ報告・相談する

利用者さんの状態の変化を確認したら、主治医や相談員、保健師へ報告・相談しましょう。

状況によっては、早めの受診が必要であったり入院を勧められたりという場合もあるため、利用者さんに関わる全ての職種が状況を把握できるようにします。

普段から注意すること

利用者さんの状態が安定している時期もありますが、日々変化していく可能性もあります。事故が起きないためにも、日頃から意識して注意することがあります。

この項目では、普段から注意すべき6項目について解説しています。

それぞれ見ていきましょう。

緊急事態の対処法を共有する

常に緊急事態にはどうするかスタッフ間で対処法を共有しておきましょう。マニュアルを作成し、適宜見直すようにしたり、しっかり読み込んでおく必要があります。

緊急事態に遭遇すると誰でも慌ててしまいます。事前に対処法を確認し、トレーニングすることで冷静な行動をとることができます。

特定の利用者さんだけではなく、どなたでも対応できるようにしておきましょう。

行動や言動の些細な変化を見逃さない

利用者さんやご家族の行動や言動の些細な変化を見逃さないことも重要です。

「何かいつもと違う」「様子がおかしい」といった些細な変化に気づけるのが看護師は得意です。これらに気づいたらスタッフ間で情報共有を行い、必要であれば早期に受診してもらえるよう手配します。

また、ご家族からの情報収集も行います。これまで見てきたからこそご家族が些細な変化に気づいている場合もあります。看護師に見せない言動や行動があれば知らせてもらうようにしておきましょう。

訪問時に持ち込めるものを確認

利用者さんのところへ訪問する際に、訪問バッグの中に持ち込めるものを確認しておきましょう。

ハサミやボールペン、聴診器など普段通りに訪問バッグに入れておいていい場合と、持ち込まないようにしたりと事前に検討しておくことが大切です。

また、看護師の私物は持ち込まないようにしたり、事故防止のためにも訪問バッグから目を離さないようにしましょう。

刃物や危険物の取り扱い

ハサミや包丁などの刃物は自宅においてあるのがほとんどです。危険物の取り扱いについても事前に話し合っておきましょう。

ご家族も含めて危険物の管理方法や、訪問の際に料理などでの作業で介入する際にも使用するための注意点を確認し事故防止に努めます。

危険予知訓練でトラブルを未然に防ぐ

医療現場において危険予知訓練(KYT)といったトレーニングがあります。転倒・転落やミスを起こさないために、どこに危険が潜んでいるか確認したり、行動はどのようにとるべきかだったりを事前に話し合います。

危険予知訓練を行うことで緊急事態にも適切な行動がとれます。

家族への説明・サポート

緊急事態に遭遇してしまうご家族は心身ともに負担が大きく、パニックになって冷静に対応することも難しくなってしまいます。

普段から、利用者さんに起きる可能性がある危険を説明し、対処法や連絡方法を一緒に確認しておきましょう。

リスクマネジメントによって利用者とご家族、看護師の安全を守りましょう!

いかがでしたでしょうか?精神科領域においてもリスクマネジメントの重要性についてご理解いただけたと思います。

リスクマネジメントは、利用者の安全だけではなくご家族や看護師のみなさんの安全を守るためにも重要な役割をになっています。

事故やミスを事前に防ぎ、ミスが起きたとしても繰り返さないように情報の共有と対策を講じていきましょう。